2014-01-11から1日間の記事一覧

夏目漱石の孤高は内的には惨憺たる自意識の格闘があり、外的には周囲の低俗との激しい反撥に露呈してゐますが、この根源に於て人間性に対する暖い愛を感じさせ、その愛が余りに清潔であつたための悲劇と解することが出来ます 漱石の苦悩には暖いものがあふれてゐるのです(或る孤高の生涯)

ここで若き吉本が述べている漱石の孤独の底には人間性への愛があり、しかしそれがあまりに清潔であったために悲劇を生んだとか、また後半のノートの文章にあるように宮沢賢治の孤独の底には人間性に対する愛は発見できず、それは科学的な修練が人間性への開…

併るに宮沢賢治の孤独は周囲の低俗との調和を保ちながら、実は徹底した冷たさを感ぜずには居られません 人々は彼の孤独に於て人間性の底に横はる愛を発見することは出来ないのです  常人は彼の孤高の心を思ひやるとき、寒くふるへずに居られません それは科学的な修練が、人間性への開眼に先行したからに外ならないと思ひます(或る孤高の生涯)

科学的な修練が人間性への開眼に先行したから、人間性への愛を見いだせなかったというのは考えられない気がします。科学的な修練などにたづさわる以前に人間は家族のなかで愛情を見出すものだからです。しかし吉本が洞察したように、宮沢賢治のなかに普通の…