2013-09-28から1日間の記事一覧

私は又、「頭髪を無雑作に苅つた壮年の男が、両手をポケットに突込んだまま、都会の街路樹の下をうつむいてゆく、もしなれたらそういふものになりたい」といふことを、一生の念願とするより外に能のない、下らぬ人間である。(哀しき人々)

これは初期ノートのなかで心に残る箇所でした。これは喩なんですね。このイメージのなかに当時の吉本の心情や倫理や時代や宿命の感覚が凝縮されています。拾い上げてみると、まず「考えること」をしている、というイメージですね。「うつむいていく」という…

私は哀しき人々と題したが、何も私達三人が哀しき人々であると思つたのではない。人は誰でも幾許か、哀しき人々であるやうな気がしたのである。若し私の言ふことが間違つてゐると言ふのなら、その人は、君はどう言ふものになりたいかと訊ねられて何と答へるだらうか。(哀しき人々)

この哀しいという感覚は宿命にたいする感覚なんだとおもいます。自分で将来像を自由に決めているわけではない。各自の宿命というものが将来像に投影されているんだということです。おまけです 有名な小林秀雄の文章 「様々なる意匠」より 人は様々な可能性を…