2012-09-08から1日間の記事一覧

絶望はその冷酷度を増した。一九四八年から一九五〇年初頭におけるニポニカ。アルダンとソルベエジユの対立の激化。アルダンに強制された経済政策。エリアンの心は救ひがたいまでに虚無的になつてゐる。(序章)

ニポニカというのは日本のこと、アルダンとソルベエジユというのはアメリカとソ連。エリアンというのは吉本が書いた「エリアンの手記と詩」という長編散文詩の主人公で吉本自身を仮託したものです。初期ノートのこの部分は「エリアンの手記と詩」のモチーフ…

僕は一九四五年までの大戦争に反戦的であつたと自称する人たちを信じない。彼らは傍観した。真実の名の下に。僕らは己れを苦しめた。虚偽に惑はされて。何れが賢者であるかは自明かも知れぬ。だが僕はそう明な傍観者を好まない。(風の章)

吉本は戦後、戦争責任論を提起して論壇にデビューしました。その戦争責任論を詳しく述べる余裕はありませんが、戦争中に反戦的であったという人を信じないと言っています。戦争中に公的に戦争否定を述べたり行動することはありえなかった。ただ心のなかで戦…