2010-08-28から1日間の記事一覧

僕は現実社会に依然として存在してゐる権力の支配とその秩序を憎む。だが現実そのものに対する嫌悪、それから人間の条件である卑小性をもつと憎む。(断想Ⅵ)

これは具体的に言うと、たとえば吉本が敗戦後に復員してきた軍人たちを見た時の気持ちにあらわれています。復員兵は大量の物資をリュックに詰めて日本に帰ってきた。それを見ている吉本は、徹底抗戦もせずにおめおめと帰国する兵隊に嫌悪を感じる。なぜ国家…

われわれは善悪の規準をもつてゐない。われわれの肯定的判断を善と規定し、否定的判断を悪と規定するよりほかない。このとき判断もまた絶対の尺度をもたない。ただ生存の量と質とに依存するだけである。判断を規定するのはわれわれの場であり、言ひうべくんば宿命がそれを決定してゐる。故に宿命に忠実なる判断は必ず肯定をとり、不忠実なる判断は否定をとる。われわれの善悪の規準もまた宿命に依存するだけである。(〈批評の原則についての註〉)

ここで吉本は善悪というものの基準を宿命に求めています。宿命という言葉はあいまいですが、われわれが意識を持つまでにすでに存在しているものが宿命でしょう。意識によって主観的に決定できるものではなく、個々の意識の誕生以前からすでにある関係を宿命…