2008-03-11から1日間の記事一覧

「夕ぐれが来た。僕は、生まれ、婚姻し、子を産み、育て、老いたる無数のひとたちを畏れよう。僕がいちばん畏敬するひとたちだ。どうかあのひとたちの貧しい食卓、金銭や生活や嫉とやのあらそひ。呑気な息子の鼻歌。そんな夕ぐれに幸ひがあるように。」(風の章)

日暮里駅のそばの夕焼けだんだん(だんだんは階段)と呼ばれる高台から谷中千駄木あたりの下町を眺めると低い家並みが広がっていくのが見渡せます。これを見て若い吉本は住まいをここいらにしようと決めたそうです。この文章はそうした光景をイメージして書…

「僕のいちばん軽蔑(けいべつ)してゐるひとたち。学者やおあつらえ向きの芸術家や賑やかで饒舌(じょうぜつ)な権威者たち。どうかこんな夕ぐれは君たちの胸くその悪いお喋言(おしゃべり)をやめてくれるように」(風の章)

これはゼミの前半で取上げた文章の続きの部分です。知識人、芸術家、権威者とは政治家とかいわゆるオピニオンリーダーと言われるような人たちのことを指しているのだと思います。吉本の若い頃に現存していたそうした人々への怒りがこもっている文章です。そ…